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島根県益田市の法律事務所。田上法律事務所です。

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後見に付されている配偶者に対する医療費の請求。


 相談の概要

 病院の事務長をしています。
 先日,無職の高齢のご婦人が入院されましたので,旦那さんに入院費用の連帯保証人をお願いしようと考えたのですが,この旦那さんは既に認知症に罹られており,成年後見に付されていました。そこで,後見人をしている弁護士に相談に行ったのですが,旦那さんを連帯保証人とすることはできないし,自分が連帯保証人になることもできない。そもそも,旦那さんを連帯保証人にする必要もないと言われてしまいました。弁護士の話では,旦那さんを連帯保証人にしなくても,奥さんの医療費は旦那さんが支払うことが可能であるということでした。口頭での説明だけでよく分からなかったのですが,これは,一体,どういうことなのでしょうか。        

 ご回答
 
 病院は,その奥さんの医療費を,民法761条本文に基づいて,旦那さんの成年後見人に直接請求できます。

 民法761条は,日常の家事に関する債務の連帯責任として,「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。」と規定しています。
 この点,家族構成員の保健・娯楽・医療に関する支出は,一般的に民法761条本文所定の日常家事債務に該当すると考えられており,また,民法761条本文所定の連帯債務は,夫婦の共同生活一体性から,通常の連帯債務よりももっと密接な負担関係が生じると解されています。
 そして,民法761条但書の「第三者に対し責任を負わない旨」の「予告」は,個別的予告が必要であるところ,本件では旦那さんが奥さんの医療費を負担しない旨の予告を病院にした事実も見あたりませんので,民法761条本文がストレートに適用されることになります。
 したがって,病院の取り扱いに基づいて旦那さんと連帯保証契約を結ばなくても,旦那さんははじめから連帯債務者として奥さんの医療費を負担しなければなりませんので,契約自体不要ですし,仮に連帯保証契約を結んだとしても,その連帯保証契約の効力は民法761条の効力よりも弱いと思われますから,旦那さんとの連帯保証契約の締結は全く意味がありません。

 ところで,その弁護士はあくまで第三者として弁護士資格に基づいて後見人となっているのですから,いかに被後見人の親族の医療費であろうと,それを負担するために自ら連帯保証契約を締結してくれることはありません。その意味では,いかに後見人といえども,親族でない第三者後見人を親族と同列に考えることはできません。     
弁護士 田上尚志(平成26年07月23日) 
参考文献
 
 新・判例コンメンタール 民法10 親族(1) (島津一郎,久貴忠彦編 三省堂)
 有斐閣双書 民法(8)親族[第4版増補版] (遠藤浩,川井健,原島重義,広中俊雄,水本浩,山本進一 編集)

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